2000/08/25(金)晴
井の頭報告
ここ10日ほど、体調を崩してしまっている。
原因不明の微熱、悪寒、腹痛が続いているのだ。冷風がきついのでクーラーを使っておらず、暑くて汗までかいているのにやたらと体が冷えて、へその周りを刺すような痛みが襲い、苦しくてうなっていると2、3時間してけろりと治まってしまう。1日中その繰り返しだ。
最初は夏風邪かと思っていたが、どうも風邪とは症状が違うようだ。医者に診てもらったら、胃腸がだいぶ弱っているらしく胃腸薬と鎮痛剤を処方された。下痢も吐き気も無いと言うと医者は怪訝そうな顔をしていたが、これでしばらく様子を見て、直らなかったら詳しく検査するという事だった。
この薬が見事に効かない。特に鎮痛剤が全く効かないのには参った。午前中はまだ調子がいいのだが午後は全く駄目で、ここ2、3日はこの暑いのにずっと肌掛け布団にくるまってうなっている有り様だ。
今日も午後2時頃から調子が悪くなり、自宅でやっている楽譜の仕事が続けられなくて横になっていた。このところの厳しい残暑で、室温は35度を超えているはずだ。それでも寒い。夏中ずっと冷房の効いた部屋(といっても古い窓型エアコンなのでさほど効き目はないが)にこもって仕事をしていたせいだろうか、体温の調整が効かなくなっているらしい。自律神経がおかしくなってしまったのだろうか。
しかしこれ以上この空気のこもった部屋にいるのが耐えられなくなった。日光に当たれば少しは良くなるかもしれないと思い、それならば井の頭公園へ行ってみようと自転車に乗った。
外に出ると意外と風が強く、この風に当たるだけで体がふるえて腹痛がひどくなった。中間地点の小さな公園でひと休みし、ちょっと迷ったが、帰ったところで状況は変わりそうにないのでやっぱり行くことにした。
やっとの思いで公園にたどり着いた。平日なので人影はまばらだ。日差しは予想していたほど厳しくはない。連日30度を超しているとはいえやはり夏の勢いは衰えている。部屋に閉じこもっていたので気が付かなかったが、季節は確実に秋に向かっているのだ。
爽やかそうな風が吹き抜け、池のボートに乗った人たちが実に気持ちよさそうだ。
似顔絵描きのじいさんは復活していた。絞りTシャツにブルージーンズ、首にはスカーフを巻いて、今日はなんだかオシャレだ。周りにはたくさんの外国人がたまっている。このじいさん英語を話せるという事で有名になったのだろうか。
絵描きじいさんの指定席から少し先に空いているベンチがあったので、仰向けに寝転がってみた。隣のベンチではおばさんが写生をしていて、フレームに私の姿が入ってしまうらしく不愉快そうにしていたが気にしないことにする。
空は晴れているがやや霞がかっている。旅行の時に中央本線の車窓から見た夏空は抜けるように真っ青だったが、やはり東京の空気は汚れているのだろうか。時折雀の群が通り過ぎていく。目を閉じるとカラスの声、アブラゼミの声に混ざってツクツクボウシの声が右チャンネル左チャンネル、交互に聞こえてくる。首を曲げて池を見ると、巨大な亀の大群が泳いでいる。これだけ数が多いと全然かわいくない。まるで恐怖映画だ。
ちょっとの間このままぼけーっとしていたのだが、風がまともに当たってさらに苦しくなってきたのでやむなくここは引き上げることにした。
上着を持ってくるべきだったな、と後悔しながらとぼとぼとあてもなく歩く。すると路上で古着を売っているおじさんがいたので、声をかけてみた。
「ウインドブレーカーある?」
「無いよ。」
「じゃ、腹巻きは?」
「(苦笑しながら)無いよ。夏かぜ?」
「いや・・・」
「顔色悪いよ」
「ちょっと冷え性でね。」
「ロヂャース*行けばあるんじゃない?」
「え?」
「腹巻き。」
「・・・そうっすね。ども。」
ロヂャースか。そういえばこのところ主食になっているウイダーインゼリーももう無いし、温度計も欲しい。寄ってみるか。
「ドナテローズ」の向かいには「マジック・マッシュ」という干からびたキノコを売っている若者がいた。段ボールの切れっぱしに「オランダ産 鑑賞・標本用」と書いて置いてある。非常に興味をそそられたが、もうすでに冗談を言う気力も無かったので、そのまま通り過ぎた。
相変わらずそよ風は吹いている。
木の葉が涼しげな音を立てている。
通り過ぎる人は皆薄着で、肌を出して歩いている。
この寒いのに、なんでみんなそんなカッコしていられるんだ?
ロヂャースにはウイダーインゼリーも温度計も無かったが、腹巻きは実に5種類売っていた。
おそるべしロヂャース。
*ロヂャース・・・吉祥寺ダイヤ街にあるディスカウントショップ。歴史は古く、私も少年時代友達と「ロヂャース川越店」に買い物に行ったことがある。