2000/11/14(火)曇り
井の頭報告
すっかり寒くなった。久しぶりに公園に行ってみると、もう地面いっぱいに枯れ葉が落ちていた。まだいくらか緑色の葉を付けているものもあるが、木々はもうおおむね紅葉となっている。鮮やかな蛍光色のフリースを着た子供の一団が自転車で駆け抜けていった。
井の頭池から下手の神田川で、釣りをしているおじさんがいた。神田川というのはほとんどが護岸も川床もコンクリートで固めてあって、まあ川と言うよりドブのようなものなのだが、井の頭公園駅前あたりのこの部分は、川幅は2mほどだが岸が土だったり大小さまざまな石が無造作に置かれていたり、多少わざとらしいにしても一応は自然の小川のように整備されている。そして毎年寒くなってくるとここで釣りをする人をちょくちょく見かける。おじさんの仕掛けは1m位の短い釣竿に極細の糸と釣り針という小振りなものだ。
近づいていって、何を釣っているのか聞いてみることにした。釣り人というのはたいがいのんびりとしているので話しかけやすいものなのだが、このおじさんはのんびりしている上にちょっと変わった話し方をする人だった。(以下、読んでしまうとすぐですが会話の始めから終わりまで10分ほどかかっていると思って下さい)
「こんにちは、何が釣れるんですか。」
「ああ、クチボソとかエビンチョだねえ。」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「この時期は良く釣れるんですか。」
「いやあ、クチボソとエビンチョだからねえ。夏の方が良く釣れるねえ。」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「でも夏はあまり釣りしてる人見ませんけど」
「蚊がいるからねえ。クチボソやエビンチョは元気なんだけどねえ。」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「今日は釣れましたか」
「ん、今日はまだだねえ。クチボソやエビンチョは釣れないねえ。」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「あのー、」
「・・・・・・・・・」
「エビンチョって何ですか?」
「ん?」
「エビの事ですか?」
「手長エビとか、藻エビなんかだねえ。後はクチボソだねえ、よく釣れるのは。」
「えっ!手長エビなんかいるんですか?」
「うん、エビンチョはたくさんいるねえ。クチボソも釣れるけどねえ。」
それにしても、あんな所に手長エビがいるなんて知らなかったな。 2000/11/30(木)快晴
11月は天気の悪い日が多かったが、このところようやく小春日和が続いている。 今日は神田川で釣りをしている人はいなかった。 似顔絵描きのじいさんは、客がいなくても雑誌の写真を模写して絵の稽古に励んでいる。このじいさんの他にも時々似顔絵描きの人を見かけるが、私はこの人の絵が一番好きだ。線の1本1本が力強く、生き生きして見える。素人がこんな事を言うのは失礼だが、他の絵描きはどうも漫画っぽい絵を描く人が多いような気がしてしまう。若い人が多いので、実際皆漫画家志望なのかも知れない。 銀杏の葉は黄色に変わり、はらはらと見る間に落ちてゆく。 そろそろ師走だ。
弁天様でおみくじを買ったら、珍しく「大吉」であった。うれしい。こんな事はたぶん生まれてから2回か3回目くらいではないだろうか。 私はあちこちの神社でちょくちょくおみくじを買うのだが、いつだって「吉」や「末吉」ばかりで、大体いつも
「このみくじにあたるひとは、たとえば苦しき山路をこす旅人のごとし、くらう、かんなん多けれども後かならずよかるべし」 などというさえない運勢である。 こんな事もあった。以前小田原の毘沙門天でおみくじを引いた時、「大吉」が出て喜んでいたところ、詳しく読むと
願事 思うにまかせず時を待て叶う などと、まるで良くない事ばかりが書いてあったのである。ミスプリとしか考えられない。こんなものを引いてしまうほど、普段はついていないのである。
今回はミスプリでも何でもない、正真正銘の「大吉」である。うれしいうれしい。
果たして有効期限はいつまでだろうか。今世紀で打ち止め、何て事はないだろうな。
しばらく横で見ていたが、何も釣れない。今日は流れが速いからねえ、とおじさんは言っていた。
私はさよならを言って、公園の中へ歩いていった。
井の頭報告
代わりに白い子猫が川辺に座り、猫背で水面をじっと見つめていた。
「天才バカボン」で、木の葉が散るのと同時に髪の毛が抜けていってしまう、かわいそうな人の話があったのを思い出した。
楓は今まさに緑色から朱色に変わっていく所である。木によってはすでに枝じゅう真っ赤になっているものもある。
待人 来てもおそい
失物 出にくい
旅行 行っても心配たえず
商売 利益思わしくない
恋愛 相手に誠意なし