2001/01/20(土)雪
松本さんの即興ワークショップに行って来た  

 サックス奏者松本健一さんの主宰する即興ワークショップへ行って来た。場所は田園都市線(いつの間に新玉川線という呼び名が無くなったんだろう?)の溝の口。 内容については松本さんのHPに詳しく報告されているのでそれを見ていただきたいが、とにかく知らぬ同士が楽器(会場の都合でアコースティックのみ)を持ってやってきて即興、つまりは曲やコードやリズムなどの決め事無しで、もっと乱暴に言えばデタラメのセッションを行う試みである。
 まあ楽しくできりゃいいや、という軽い気持ちで参加したのだが、実際「音を出す」という行為に対してこれほど多くを考える事になるとは自分自身思わなかった。とても新鮮な体験をさせていただいたと思う。

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 時間を読み間違えて遅刻してしまったので、会場に着いたときにはすでにセッションが始まっていた。ピアノとチューバの人が二人で演奏していて他の参加者たちがそれを真剣な表情で聴いている。張りつめた空気が漂っていて、ちょっとびびった。松本さんに「17」と書かれた紙片を渡され、何だろうと思っていたら、見ているうちにこれは演奏する順番だとわかった。最初に1番と2番の人が演奏し、頃合を見て松本さんが「3」と書かれたスケッチブックを出すと、1番の人が抜けて3番の人が入り、次は2番が抜けて4番が入る、という繰り返しで常に二人の演奏者が入れ替わり立ち替わり演奏するというわけだ。何か銀行の順番待ちみたいな気もしたが、このやり方はとても良かった。ノンストップで時間いっぱい続いたにも関わらず、全くダレたり飽きたりする事がなかった。

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 この日は私はギターではなくウクレレと自作のボウド・サルテリーを使ってみた。普段あまり使わない楽器の方が今回のセッションには良さそうな気が、何となく、したのだ。これは後から考えると、こういうことではなかったかと思う。

 やってみれば解ると思うが、「さあ、今からデタラメをやりなさい」と言われても人間なかなか出来ないものである。私はちょくちょく他の場でも即興のセッションに参加していて、最近特に感じることなのだが、私は割と調性のようなものを出してしまう(出てしまう)芸風なので、相手が「あ、合わせなきゃいけないのかな」と戸惑ってしまう事が多いのである。相手も構わずどんどんやるか、構いながらもどんどんやってくれればいいのだが、慣れていない人や(即興に「慣れる」というのもなんかヤだな)、遠慮深い人が相手だったりするとやはり「悪いな」という気がしてしまう。ギターのような手慣れた(といってもそれほど大したことが出来るわけではないのだが)楽器だと特にそういう状況に陥りやすく、何だか、自分の出す音やセッションの進み方が予想できてしまうような気がするのだ。
 ある種の人たちの言い方を借りれば私自身が「解放されてない」のかも知れない。よく解らない。もちろんそれなりに相手とコミュニケートするやり方はあるとは思うが、とにかく今回は何か違う事がしてみたかった。

 ちょいと自分を追い込んで、予想もつかないような展開に進むことを、無意識に期待していたのだろう。

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 さて、私の順番が来て、ひとしきり演奏した。
 結果だが、普段訓練していない楽器を使った事でよりファンキーな演奏になったと思う。容れ物が小さい分、はみ出た物も多かったというわけで、個人的にはこういう自分を発見出来たのが非常に面白かった。コミュニケーションという面では、上手く行ったかも知れないし、上手く行かなかったかも知れない(そもそもこういうセッションで「上手く行った」というのがどういう状態を指すのだ?)。ただ一つ言える事は、今回のセッションでは、おそらく今までやって来た中で一番、ダイレクトに等身大の自分の姿が現れた、と感じられたという事だ。自分の音を出すのに必死になってつい相手の音を聞き逃す時があったり、何かやろうとして失敗したり安心したり、聴衆の反応を何となくうかがってみたり、これは、せせこましく生活している普段の自分の姿に他ならない。ごまかしの効かない状況で、やっぱりこういうのはいやでも出てしまうんだな、とあらためて感じることが出来た。

 聴き手としては、意外とマトモな音なんか全然出さない人の方が面白かった。あとむりやり引っぱり出されて困っている人とか。これも新しい発見だった。

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 ただ、自分の場合、こういうのはワークショップという場でやるのは良いが、これがお金を取ってライブハウスで長時間客に聴かせる、という状況では果たしてどうなってしまうだろう、とも思った。今の所ライブでは即興は曲の中の一部分で、あくまで飛び道具的に使っているに過ぎない。一度全即興ってのもやってみたい気もするが、やる方も聴く方も相当辛くなりそうだ。
 まあ演奏する上で一番大事なのは「うたう」事だと思っているので、その点は曲だろうが即興だろうが同じ筈なのだが。うーん。

 結局解らないことだらけなのだが、とにかく色々なことを考えさせてもらった、収穫の多いワークショップだった。

 このような機会を与えてくれた松本さん、他の参加者のみなさんに感謝します。また参加させて下さい。

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 この日は打ち上げにも参加したが、ビール飲みながらの即興論にはイマイチ入り込めなかった。私は何事に寄らず考えるのに時間がかかる方なのだ。批判がましい態度に取られなかったかどうかちょっと心配。




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