2000/03/02(金)晴
井の頭報告  

 今日は昼過ぎに公園まで散歩に出かけた。昨日から降っていた雨も上がり、すがすがしい気分だ。途中、三つ子のブルドッグを散歩させているブルドッグ顔のおばさんがいた。この人(と犬)は時々見かける。

 腹が減ったのでボート乗り場近くのベンチに座り、「カーニバル」で買ってきたホットサンドをもぐもぐ食べていたら、あっと言う間に鳩に取り囲まれてしまった。ベンチの上や背もたれや目の前の柵に乗って羽根をばたつかせ、中には膝の上に乗ってくる奴までいる。私は学生時代、東大の三四郎池のほとりに住んでいるニワトリに足をつつかれて以来、こういうのが大の苦手である(一応注:私は東大出ではない。たまたま用があって出かけた)。鳩やニワトリはバカだから、いくら追い払っても2、3歩歩くとすぐに自分が追い払われた事を忘れてしまうのだ。
 鳩どもと戦いながらホットサンドを何とか全部食べた。てめえらにやるメシはねえ。食いたきゃ働け。

 やっと落ち着いて、コーヒーを飲みながら池の噴水を眺めていたら、突然背後からギターの音が聞こえた。見ると、フルアコギターをアンプにつないで、ジャズのスタンダードを演奏している若者がいる。足下に置いた市販のアレンジ譜を見ながら「Porka Dots And Moonbeams」とか「Day By Day」なんて曲のテーマ部分を弾いていて、なかなか上手である。アドリブは入っていなかった。

 私としては、なぜこの人はわざわざ路上でこういう「営業」のような演奏をしているのか、と少し疑問に思った。他人の曲、他人のアレンジだし。もちろんそれはその人の勝手で、それぞれ都合はあるだろう。こういうのが芯から好きで弾いているのかも知れないし、あるいは鍛錬のつもりなのかも知れない。本気で路上演奏で食っていこうと、受けの良さそうなスタイルを選んでいるのかも知れない(必ずしも成功しているようには見えなかったが)。

 しかし、誰が何をどう弾こうと自由だが、アンプを使って100メートル、200メートル先まで聴こえるような音量で弾くのはいかがなものだろう、とも思った。 まあぶっちゃけた話、うるさくて迷惑だったという事である。二つ先のベンチで寝ていたホームレスのおじさんも、うるさそうに身じろぎしていたし。

 家に帰ってから、気分直しにビーチボーイズのCDを聴いた。1曲目の「ダンス・ダンス・ダンス」のイントロでもう上機嫌に戻った。それにしても、この頃以前にも増して、いわゆるジャズギターというものに魅力を感じなくなったな。





2000/03/08(木)晴時々曇寒し
鍵盤ハーモニカを買った  

 このところ暇である。暇にまかせてどんどんギターソロの宅録をしている。なかなか良い音で録れるし、CDに焼く手順も覚えた。でもこういう風に録音してみると自分の演奏の欠点もはっきり判る。もっと精度を高めなきゃいかんなあ。


 今日はそれもちょっとお休みにした。運動不足なので、電車でお茶の水まで行き散歩がてら楽器屋を覗く事にする。


* * *

 今使っているギターがだいぶ痛んできたのでクラシックギターを物色したかったのだが、やはり専門店でもない限り品揃えが薄い。安く売る量販店では本数、売り場面積ともウクレレより少ないくらいである。冬だというのに。

 で、ギターはあきらめて、前から欲しいと思っていた鍵盤ハーモニカを探した(何故かマイナーな楽器ばっかりなのだが)。谷口楽器の2階に、かなりの種類が揃っていた。

 メーカーは、ヤマハ、スズキ、HORNERのものがあった。私が欲しいのは、友達のチャーリー君こと加藤千晴君も使っているスズキのやつだ。ヤマハはキライだし、HORNERのはチト高い。

 手頃な値段の、37鍵のやつがあった。子供の頃学校で買わされたセコイおもちゃみたいなのではない、しっかりとした楽器である。デザインも美しい。しかも、売値7.000円が、店頭品に限り5.700円だと言う。フトコロが寂しいので今日は買うつもりはなかったのだが、運命を感じたので即買ってしまった。そう、この楽器は、ここで私に買われるのを待っていたのだ。

 今日初めて知ったのだが、世間でよく使われている「ピアニカ」という名称は、実はヤマハの製品名なのだそうだ。つまり、ヤマハ以外のメーカーで作られた物は「ピアニカ」とは言わない。スズキは「メロディオン」だし、他のメーカーもそれぞれの名称で呼んでいる。私は今までその事を知らず、すべてピアニカと呼んでいた。なんてこった。総称は「鍵盤ハーモニカ」と言うそうなのである。

 これは谷口楽器の若い店員さんが教えてくれた。この人は受け答えがはっきりしていてとても感じが良く、領収書の字もきれいだった。イ○バシやシ○クラの店員も見習うべきである。


* * *

 本当はこの後秋葉原に行く予定だったのだが、楽器を買ったら嬉しくてすぐさま吹いてみたくなった。ウクレレを初めて買った時も、やっぱり嬉しくて駅まで弾きながら歩いたのだが、鍵盤ハーモニカではそうもいかない。それで、お茶の水から神田淡路町を通って靖国通りを神田須田町、岩本町、東神田、日本橋馬喰町を経て両国橋の近く、隅田川のほとりまで歩いた。散歩には丁度良い距離である。

 風が強いので隅田川の流れは大きく波打っていた。水は汚いが、臭いはそれほどでもない。冬だからだろうか。
 欄干にはカモメが20羽ほど止まっている。近くで見ると、カモメという鳥は実にきりりとした顔をしている。いかにもカモメの水兵さん、って感じだ。それにひきかえ、その下の地面にたむろする鳩どもは醜悪であった。あまり汚くて真っ黒けなので、最初はカラスかと思ったほどだ。汚れているだけでなく、全身ぼろぼろに毛羽立っていて、いかにもみすぼらしい。落ち着き無く歩き回る姿は、まるで何かにおびえているようだ。
 でも、ここの鳩は井の頭公園に住んでいるやつとは違って、人間には全く興味を持たないようで、その点はありがたかった。

 川っぺりに座って、鍵盤ハーモニカを吹いてみる。うん、いい音。特に高音が綺麗だ。低音は余計に息を吹き込まないと音が鳴らない。音域の広いフレーズを吹くときにその呼吸が判らず、戸惑った。また、和音と一緒にメロディを吹こうとすると、低音から先に鳴り出すのでかなりの違和感を感じる。チャーリー君はよくこんな楽器でバッハやモーツァルトが吹けるものだ。

 とはいえ、単音だけ吹いているぶんにはそう難しくない。
 寒さに我慢出来なくなるまで約1時間、無心に吹きまくった。何も考えなくても、次々とメロディーが浮かんでくる。これでもっと指がちゃんと動けば言う事無いのだが・・・。
 でもとにかく、久しぶりに管楽器奏者の気分を味わい、しばし至福の時間を過ごさせてもらった。

 ああ、いいもん買った。明日もここに来ようかな。




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